スポンサーサイト
- --/--/--(--) -
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
この記事のURL | スポンサー広告 | ▲ top
アフター
- 2009/12/03(Thu) -
そういえば、訪れるのは初めてだったと椎名真は思ったがしかしそこには何の障害も無かったのだ。
呼び鈴を鳴らして応答があったと思えば扉はすぐに開かれた。
名前と所属と訪問理由を述べようとする前に
「いらっしゃい、どうぞ」
と迎えられてしまって一瞬逡巡したものの素直に上がる外は無かったのである。
「カガチくんのお部屋二階の奥だから。なぎちゃん案内してあげて」
「真おにいちゃんこんばんはなんですよ!」
人の良さそうな夫人の後ろから、見慣れた金色の瞳がひょっこり覗く。じっと見上げてはえへーと笑う。
「こっちー」
とたとたと軽い足音で駆け上がっていくのを、静かに階段を軋ませながら椎名はゆっくりと追う。
「カガチー起きてるっ?」
追いついたところで柳尾なぎこが襖を勢いよく開けた、その奥で布団の上にだらしなく転がった人影が呻く。
「んー…なぎさん?今日はお風呂おねえちゃんと入っ…」
目隠しするような腕をずらして、侵入者を伺うように寄越した視線がすいと合わさった、その時。
「!!!???」
『鳩が豆鉄砲食らった顔』とは成程この顔を言うのだな、と椎名はしみじみ思った。
「どうぞ」
覚えたてのティータイムで、エヴァ・ボイナ・フィサリスが茶を給仕する。
「ありがとう」
礼を述べる椎名真に
「どういたしまして」
と静かに微笑む。
「では、私はなぎさんをお風呂にいれてきます」
「ん、頼むねぇ」
窓の外をじっと見つめたまま、東條カガチが応えたのを確認して、エヴァが静かに部屋を去る。
先刻からずっとこうなのだ。転がっていた布団を片付けて向かい合わせになったと思ったらそれきり目もあわせず、胡坐をかいて頬杖でただ窓を眺めているのだ。
言葉といえば、挨拶代わりの他愛も無い言葉を二・三交わしたばかり。
椎名にしてみれば予想通りではあった。話したい事も聞きたい話も沢山あれど、彼が自ら語ることは無かろうと。茶を啜りながらちらりと東條を見遣る。
ラフに着こなされた着物が、それが彼にとっての普段着であり部屋着である事を示している。ゆったりと粋に肌蹴た胸元から、角度を変えれば鳩尾の辺りまで――あの異世界で、必死で光術を打ち込んだ辺りまで見えそうだ。
東條は相変わらず、だが視線に気付かなかった訳ではなかった。何度も何度も殴られて、そこには痣が出来ていた。
痣にはなったものの傷は直ぐに回復魔法で癒えた。それでも、あの時の「記憶」がいまだにずん、と痛む。
「……まだ、痛む?」
「あ…いや…」
不意にかけられる言葉に、見透かされた気がして東條が、なんでもない風を装おうとして茶に手を伸ばす。しかし一歩届かず、伸ばした指が湯飲みを蹴り飛ばす。あっ、と椎名が手を伸ばしたお陰で畳への被害は抑えたものの。
「っ!あっつ…!」
その被害は椎名の袖口と膝が全て請け負う事になってしまった。文机からティッシューを引っ掴んで拭くも被害は甚大で。
「…脱げ。着替え貸すから」
一度は遠慮したもののしかし茶の香り漂うびしょぬれな服を着てるわけにもいかず椎名も了承した。
が、しかし此処でもう一つ、問題が起こったのである。
「あー…洋服持ってねえや、俺。」

「へえ、中々似合うねぇ」
「そうかな、ありがとう」
それきり、再び。先程までと同じように、胡坐に頬杖で東條は窓を眺めている。何かあるのかと椎名も眺むるがあるのは宵闇ばかり。窓ガラスに映る、見慣れない和服姿の自身になんとなく気恥ずかしさを感じてすぐに目を逸らした。
着付けは一通り習ったけれど自身で着る事はそうそうない、しかも正装ではなく部屋着の単を着流してゆったりした懐が殊更気恥ずかしい気がして、襟にそっと手をやる。まあ、目の前の男などはラフに着すぎて胸元どころが裾まで肌蹴てる。胡坐をかく足が半ば覗いているのだ。それよりはまだましだろうとよく分からない安堵をしたところで椎名は自分に注がれる視線に気付いた。
いつの間にかこちらを向いていた東條の、金色の目がじっと見据えている。その先は襟に沿えた手先…の下、の包帯。
その下の、一文字に切り裂かれた傷を、東條は見ていた。誰がやったのではない、東條自身がつけてしまった傷を。
憑依され、操られ…いいや、あれは俺自身の意思俺自体の渇望なのだ。死にたいと、壊したいと叫ぶ己の心の所業なのだ。
悔しいのと、怒りと、悲しみと、何かよく分からない心がぐるぐると巡る。
「あ…大丈夫、もうなんでもないよ。大したことなかったから」
その心情を察した椎名が、包帯を隠すようにそそくさと前身頃を寄せる、その手に東條の手が触れた。そのまま、傷に触れるように手ごと柔らかく押し付ける。
「…カガチ、さん?」
「痛かった、よなぁ…ごめん…」
そのまま俯いてしまったから表情は分からない。それでも、小さく震える指先から推し量られる、いや、流れ込む感情が椎名の手から抵抗する力を奪って振り払いたくとも振り払えないのだ。
それよりも、今何かを言わなければいけないのに、目の前で肩を震わせてごめん、ごめんと呟くこの人に何かを伝えなければいけないのに。
「カガチさん……カガチ」
どうにか搾り出したのはその名だけであったが、だがそれだけで十分だった。東條の呟く声がぴたりと止まって、静かに顔を上げる。
「……真」
そこからは押し黙ったまま、互いに見合わせて、視線が絡み合ってするりと結ぶ。
そして。




ったーーーーーーんと盛大な音を響かせて襖が開いた。
「カガチーアイス食べますよ!!」
風呂を上がって寝間着姿のなぎこがどたどたと駆け込んでくる。鼠の反逆を受けた猫もかくやの勢いで飛びのくように離れた。やましいことなど何一つしていないはずなのに妙に気恥ずかしくて互いに顔を背ける。二人の間に割り込んだなぎこがお構い無しにどさどさとカップアイスを広げた。
「あのね、真おにいちゃんの分もあるんですよ!なぎさんがおいしいの選んでおいたよ!」
スプーンと共に押し付けられたアイスを持ったまま唖然とする二人を尻目に、自分のアイスの蓋をぺりぺりと開けるなぎこ。嬉しそうな顔で一口目を含む。
「それからねー今日はなぎさんお布団こっちに持ってきて、カガチと真おにいちゃんと三人で寝ますよ!三人川の字ってやつですね~」
「……え?」
「ええええええええ」
ツァンダの夜は今日も静かに更けていく…予定である。
この記事のURL | 彼らの事 | CM(0) | TB(0) | ▲ top
<<アフター 補足 | メイン | しまった>>
コメント

コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する


▲ top
トラックバック
トラックバックURL
→http://nightcalm340.blog99.fc2.com/tb.php/169-2efee22e
| メイン |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。